嫌な顧客と嫌な人間

宋文洲氏のコラム
実は私は彼のコラムが大好きで、毎回欠かさず読んでいる。忘れていた感情や、思ってもいなかった視点などを確認させてくれるという点において、非常に重要視しているもののひとつである。コラムの内容によっては中国ネタとかが絡むせいか、厨がよりつくこともあるようだが、それすらも自分の糧にする度量は驚きである。私には無理難題だ。

まぁそれはそれとして。今回のコラムね。

あなたの会社には掃除のおばさんの「おはようございます」に対して返事もしない方がいませんか。あなたの部署には、出入り業者に妙に横柄な態度を取る方がいませんか。どうでしょうか。このような方々には、嫌な人が多いと思いませんか。

こんな書き出しから始まり、最終的には

日本に限らず、諸外国で企業の不祥事が増えているのは、収益向上の技能ばかりを優先し、人間教育がなおざりにされているからだと思います。

と締めくくられたこのコラムには、現在の社会が持つ病の初期症状がつづられているように思えてしょうがない。
もちろん末期症状になるとミラーマンと呼ばれるようになったり挙句の果ては道ですれ違った外国人を家に連れ込み殺害したりするわけだが。

このコラムの最初に出てくるA氏ほどあからさまで嫌らしいパターンこそさすがにお目にかかったことはないが、似たような経験はいくらでもある。提案書を了承して仕事を始めると提案の範疇を超えてどんどん業務が拡大していく、なんて会社は腐るほどある。当たり前だが契約の範疇を超えているのでタイミングを見計らって丁重にお断りしたり、断りきれない場合には一部だけはやらせていただきます、とか言うわけだが、当然彼らは満足しない。そのためだろうか、契約が終了するとお付き合いはこれっきり、となる場合も多い。やらしいことに提案の範疇を超える業務を言い出すときは契約が成立し、業務が始まってしばらくたってからである。どうせならもっと早く言ってくれ、と思うが早くに言うと契約破棄&再提案になり、高くなってしまうからだろう、早く言う人は皆無である。
そういう会社なり部署なりと付き合わざるを得ない自分の立場に辟易とすることがある。そんな心持で行う業務は、どこかなおざりで、やっつけ仕事が大半である。ときには、途中で嫌になって「ここまで技術をこちらから提供しますから後は自前でやってください」という気持ちになってしまう(実際にやったときもある。そのときの担当は技術が手に入ると喜んでいた)。そういう場合にはたいてい数年後「やっぱり自前でできませんでしたのでやってください」と依頼が来る。が、こっちは過去を知っているので(追加業務の発生を見越した上で)見合うコストを提示する(つまりバカ高)。必要だから発注の意思があるので、そういった会社は「高いなー」とぼやきながらもそのコストを飲むことになる。
これは回りまわってその会社にとってデメリットになりはしないだろうか。最初の段階でみみっちい策を弄したりしなければ、バカ高い見積書を見ることはなかっただろうに。
かたや、こんな例がある。クライアントはまさに「掃除のおばさんに会釈する」ような人たちと仕事をしていたときである。元々あまり予算がない、ということだったのでタイトな内容とせざるを得なかったのだが、まぁなんとかなるだろうし、なんとかするさ、とばかりに楽観的な提案をすることにした。高くては勝ちを認めてもらえても契約してもらえないだろうし。
そして、無事こちらが提案した内容を了承していただき、業務を始めていたら提案内容じゃ不十分であることが発覚した。こちらが想像していた以上に複雑な案件だということに業務の後半戦で気づいてしまったのだ。これはもう完全にこちらの提案ミスである。私は本業はコンサルタントなので、業務の赤字は会社の業績を左右するだけでなく、私に直接降ってくる。でも提案をしたのは私だし、コストの見積もりをしたのも私なので言い訳のしようもない。もう「糸冬 了」である。
起こってしまったことはしょうがないし、彼らのためならいいか、とばかりに赤字業務になるのを覚悟の上で「提案の範疇にない業務をやらなけらばいけないことがわかりました。追加分の業務をやらせていただきますから時間をください。すみません」、と一人さみしくクライアントのオフィスに侘びに行った。そうするとクライアントは、「状況はわかりました。時間も大丈夫です。しかし、あなたに時間はあるのですか?それが心配です。それより心配なのは、コストです。赤字業務になってしまいませんか?ご苦労をかけるのは本意ではないですから、追加コストの見積もりを出してください」とおっしゃったのである。もちろんこちらははなっから覚悟を決め(上司にも了解を取り)、侘びに行っている。追加コストの見積もりなんてするつもりは毛頭ない、ので「見積もる予定はない。現在の見積もりでやらせていただきます」と見栄を張ってきた。大体、こちらの時間まで心配していただけるとは思わなかった。
今でもそのクライアントとはお付き合いさせていただいており、リピーター企業のひとつである。見積もりも(上記のように)こちらが見積もりミスで赤くなることはあっても、(追加業務を見越した事によって結果的に)高くつくような見積もりをお渡ししたことは一度もない。

少なくとも最終的には人対人で営まれているわけであり、そこには因果応報が成り立つような気がする。

そうそう、このコラム中、

売買する当事者は対等な関係です。改めて言うまでもないですが、お金を払う側が上位の立場で、商品を納める側が下位にあるということではありません。商品を買うことで得る便益を得られるから対価を支払うのであって、お布施を渡すわけではないのです。

という文言があるが、これを実際に理解している人間は極少数であろう。

みなさんのまわり、どうですか?あいさつしている人、いますか?いませんか?